シリア危機(公開日:2025.06.19)
【世界難民の日】
シリア難民の子どもたちの学びの継続を目指して―進捗報告―
レバノンは、難民や国際的保護を必要とする人を多く受け入れている国の一つです。現在、レバノンに居住する人のうち、8人に1人が難民、もしくは避難を余儀なくされた人々です1。その多くは、隣国シリアから逃れてきた人々が占めています。2025年3月末時点で、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)に登録されている難民はおよそ72万人ですが、レバノン政府の推計では、実際の人数はそれをはるかに上回る140万人にのぼるとされています2。
2024年12月8日にシリアで政権交代が起きましたが、今後の情勢は依然として不透明です。長年にわたる紛争の影響もあり、すぐに国内で生活を再建することは困難であるため、シリア難民が安心して帰還できる見通しはまだ立っていません。
さらにレバノンは、シリア危機に加え、2020年のベイルート港での大規模爆発や深刻な経済危機に見舞われてきました。加えて、2024年、レバノン・イスラエル間の紛争の影響によって、国内の基礎サービスは一層不安定なものとなっています。こうした複合的な危機の中で、レバノン国内の難民や受け入れ先のコミュニティ(ホストコミュニティ)の人々は、極めて厳しい生活環境に置かれています。教育の分野では、レバノンの公立学校に通うためには煩雑な手続きをしなければならず、学校に通えているシリア難民の子どもは非常に限られています。特に、数年以上学校に通っていないシリア難民の子どもの場合、公教育への移行手続き上、学校に戻ることは難しくなります。
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、2020年から、地域の提携団体とともに、レバノン北部でシリア難民とホストコミュニティの子どもたちに対して教育支援を行っています。学習の遅れがある、もしくは、学校に通っていない子どもたちに補習授業や基礎的な読み書き・計算の授業を提供してきました。このブログでは、現在実施中の事業「レバノン北部におけるシリア難民の子どものための教育支援強化事業」(事業期間:2024年11月〜2025年11月)の活動状況を報告します。
この事業は、大きく分けて、以下の4つの活動で構成されています。
1. アウトリーチ活動
2. 教員の能力強化
3. 基礎的な読み書き・計算の授業と社会性と情動の学習の提供
4. 教育の重要性に関する保護者や地域住民への啓発活動
まずはアウトリーチ活動を通じて、学校に通えていない子どもや支援を必要とするシリア難民の子ども175人を対象地域で特定しました。そのうち、100人は、基礎的な読み書き・計算の授業に繋げ、残りの子どもたちは、個別ニーズに合わせて適切な専門機関やそのほかの教育支援に繋げました。障害のある子どもを対象としたり、男女比を同等にしたりすることで、誰もが安心して教育を受けられる、インクルーシブな環境をつくっています。
また、安心・安全でインクルーシブな教育機会を提供するため、教育プログラムの開始前には、教員に対して能力強化研修を行いました。教員は、研修を通じ、インクルーシブ教育、紛争や災害などの緊急下で子どもの保護と教育を支援する方法(The Teachers in Crisis Context training; TiCC)、遊びを取り入れた指導方法、セーフガーディング、いじめの防止方法などに関して学びました。また、月に一度、相互学習サークルを行っています。これは、教育現場で悩んでいることや効果的だった教授法を教員同士で話し合うことで、学び合い、更なる能力強化を目指しています。
基礎的な読み書き・計算の授業では、公教育のカリキュラムに合わせて、アラビア語、フランス語、算数を教えています。第一学期を終え、2025年6月から第二学期が始まります。また、この教育支援事業では、社会情動的スキル向上プログラムを取り入れています。このプログラムでは、衝動的な感情や行動をコントロールする方法を身に着けることや対人関係スキルなどを学ぶことができます。これらのスキルを身に着けることで、長期間にわたる紛争の影響を受ける子どもたちの精神的負担を軽減し、より学習に集中することができます。
これらの教育支援を継続的に行うためには、保護者や地域住民の教育の重要性に関する理解が不可欠です。この事業では、シリア難民の保護者や地域住民150人に対して、電話や家庭訪問を通じて、教育が子どもの成長の手助けになることや、将来の可能性を広げるためにも大切であることなどを伝え、教育の重要性に関する啓発活動を行いました。また、子どもたちの学びを家庭でサポートする実践的なアドバイスや、公教育への登録方法などについても伝えました。参加者からは、「分かりやすく実践しやすい。」、「女子生徒にとっても学校が安全で開かれた場所であるということが分かった。」、「公教育への登録方法に関する情報が有益であった。」という声が聞かれ、子どもたちの学習のサポート体制を強化することができました。
私たちは引き続き、シリア難民の子どもたちが、学習の遅れを取り戻し、公教育を受けることができるように支援します。本事業は、ジャパン・プラットフォームの助成金と有限会社三平商会のご寄付を受けて実施しています。
(海外事業部 柳井麻里)
2024年12月8日にシリアで政権交代が起きましたが、今後の情勢は依然として不透明です。長年にわたる紛争の影響もあり、すぐに国内で生活を再建することは困難であるため、シリア難民が安心して帰還できる見通しはまだ立っていません。
さらにレバノンは、シリア危機に加え、2020年のベイルート港での大規模爆発や深刻な経済危機に見舞われてきました。加えて、2024年、レバノン・イスラエル間の紛争の影響によって、国内の基礎サービスは一層不安定なものとなっています。こうした複合的な危機の中で、レバノン国内の難民や受け入れ先のコミュニティ(ホストコミュニティ)の人々は、極めて厳しい生活環境に置かれています。教育の分野では、レバノンの公立学校に通うためには煩雑な手続きをしなければならず、学校に通えているシリア難民の子どもは非常に限られています。特に、数年以上学校に通っていないシリア難民の子どもの場合、公教育への移行手続き上、学校に戻ることは難しくなります。
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、2020年から、地域の提携団体とともに、レバノン北部でシリア難民とホストコミュニティの子どもたちに対して教育支援を行っています。学習の遅れがある、もしくは、学校に通っていない子どもたちに補習授業や基礎的な読み書き・計算の授業を提供してきました。このブログでは、現在実施中の事業「レバノン北部におけるシリア難民の子どものための教育支援強化事業」(事業期間:2024年11月〜2025年11月)の活動状況を報告します。
この事業は、大きく分けて、以下の4つの活動で構成されています。
1. アウトリーチ活動
2. 教員の能力強化
3. 基礎的な読み書き・計算の授業と社会性と情動の学習の提供
4. 教育の重要性に関する保護者や地域住民への啓発活動
まずはアウトリーチ活動を通じて、学校に通えていない子どもや支援を必要とするシリア難民の子ども175人を対象地域で特定しました。そのうち、100人は、基礎的な読み書き・計算の授業に繋げ、残りの子どもたちは、個別ニーズに合わせて適切な専門機関やそのほかの教育支援に繋げました。障害のある子どもを対象としたり、男女比を同等にしたりすることで、誰もが安心して教育を受けられる、インクルーシブな環境をつくっています。
また、安心・安全でインクルーシブな教育機会を提供するため、教育プログラムの開始前には、教員に対して能力強化研修を行いました。教員は、研修を通じ、インクルーシブ教育、紛争や災害などの緊急下で子どもの保護と教育を支援する方法(The Teachers in Crisis Context training; TiCC)、遊びを取り入れた指導方法、セーフガーディング、いじめの防止方法などに関して学びました。また、月に一度、相互学習サークルを行っています。これは、教育現場で悩んでいることや効果的だった教授法を教員同士で話し合うことで、学び合い、更なる能力強化を目指しています。
基礎的な読み書き・計算の授業では、公教育のカリキュラムに合わせて、アラビア語、フランス語、算数を教えています。第一学期を終え、2025年6月から第二学期が始まります。また、この教育支援事業では、社会情動的スキル向上プログラムを取り入れています。このプログラムでは、衝動的な感情や行動をコントロールする方法を身に着けることや対人関係スキルなどを学ぶことができます。これらのスキルを身に着けることで、長期間にわたる紛争の影響を受ける子どもたちの精神的負担を軽減し、より学習に集中することができます。
これらの教育支援を継続的に行うためには、保護者や地域住民の教育の重要性に関する理解が不可欠です。この事業では、シリア難民の保護者や地域住民150人に対して、電話や家庭訪問を通じて、教育が子どもの成長の手助けになることや、将来の可能性を広げるためにも大切であることなどを伝え、教育の重要性に関する啓発活動を行いました。また、子どもたちの学びを家庭でサポートする実践的なアドバイスや、公教育への登録方法などについても伝えました。参加者からは、「分かりやすく実践しやすい。」、「女子生徒にとっても学校が安全で開かれた場所であるということが分かった。」、「公教育への登録方法に関する情報が有益であった。」という声が聞かれ、子どもたちの学習のサポート体制を強化することができました。
私たちは引き続き、シリア難民の子どもたちが、学習の遅れを取り戻し、公教育を受けることができるように支援します。本事業は、ジャパン・プラットフォームの助成金と有限会社三平商会のご寄付を受けて実施しています。
(海外事業部 柳井麻里)
1 UNHCR, Global trends Forced displacement in2024,June 2025.
2 UNHCR Operational DataPortal, “Syrian Regional Refugee Response – Lebanon,” accessed 16 June, 2025, https://data.unhcr.org/en/situations/syria/location/71